2020.5.18
加藤武彦
今、新型コロナウイルスで歯科の講演活動も自粛されていますが、自粛要請が解除になった時には、病院や介護施設において口腔ケアの徹底により誤嚥性肺炎が激減する現実を見て、このようなケアは各施設で先を争ってやらなければならない奇策の一つだと思います。
ここで、黒岩先生による咽頭ケアまでを範囲に収めた口腔ケアに対する革命的なテクニックの開発により、従来型とは格段の成果を収められるようになりました。
本来、口腔、鼻腔、咽頭は一つの部屋であり、口呼吸によって口腔粘膜へ付着した痰等は、スポンジブラシや手指にガーゼを巻いた口腔清拭では完全に取れません。そこで、黒岩先生の開発されたくるリーナシリーズでの粘膜ブラッシングでは、保湿剤を塗布することで粘膜に固着し硬くなった痰等をそのブラシで徹底的に清拭することにより、呼吸の確保が可能となり患者さんの口腔機能も向上するようになりました。また、そのくるリーナブラシは口腔内リハビリにも用いることが可能で、口唇、頬、舌等を使わなくなり活動が低下した口腔機能へ刺激を与え、活性化を促すことが出来ます。
ここまでは従来の口腔ケアの範囲ですが、従来のケア方法では咽頭に停留し細菌感染している痰が除去されず、呼吸のゼイゼイ感や誤嚥性肺炎対策の更なる徹底が出来ておりませんでした。
そしてその咽頭部に停留した痰を、前述の口腔ケアで唾液腺のリハビリも同時に行うことにより、自化の新鮮な唾液により壁着した痰が剥がれることも期待します。尚、ファンファンブラシなど毛束が細く長いブラシに保湿剤をつけ、咽頭部へ流し込むことにより、壁着した痰の喀出が見込まれ、その喀出により痰が口腔内付近まで出たところをくるリーナブラシでひっかけて除去することによって咽頭のケアが行えるようになってきました。
患者様の開口時に見える範囲が歯科の領域でしたが、先述したとおり、口腔、鼻腔、咽頭、は一つの部屋なので、その最奥である咽頭に壁着した痰を除去することができず、更に病院ではそれを吸引というテクニックを用いて排出しようとされておりますが、細い吸引管で引けるのは軟性の痰のみです。また、治療される患者様においては体力が消耗されますので、大変です。
今まで医科の領域でも咽頭に停留した痰を除去することが出来ず、誤嚥性肺炎の罹患を徹底的に低下させることが困難でしたが、このテクニックを用いれば本当に脅威の成果がえられます。
ただ、目視出来ない部位に停留している細菌に富んだ痰を除去するこの咽頭ケアを行うためには、歯科医、衛生士が口腔、鼻腔、咽頭、気管等の口頬部から咽頭にかけての解剖生理をしっかりと勉強し、尚且つ従来機能が低下しがちな舌、口唇、頬、また舌骨上筋群、下筋群等のリハビリをも行った上で、その筋活動を活発にさせながらケアを行わなければなりません。そのためには、その周囲の解剖生理学を入念に学んだうえでこのテクニックを獲得して頂きたいと思います。
このテクニックを今求めているのは病院や介護施設等で、本当に困っている所で黒岩先生を必要としております。医科関係の職種の方々にとっては、基礎知識としてこの部位(咽頭、解剖生理)を直にご指導しても理解して頂ける範囲ですが、歯科の場合には口腔という守備範囲ができておりますので、加えて解剖生理を勉強していかなければならないと思います。
以上の事柄を大分東部病院にて実際に、森部長、並びに歯科衛生士の衛藤恵子さん等をヘッドとしたリハビリチームによって口腔ケア、咽頭ケアが徹底的に行われた結果、従来から見ると誤嚥性肺炎による病院への転院数の激減や、吸引器をお蔵にしまい込んでしまったという事があの加藤塾での度重なる発表でもおわかりいただけます。本当に徹底して口腔ケア、咽頭ケアが出来るようになった施設においては、この様な好成績が出ているのです。
加藤塾の皆様も、私たちが到達したデンチャースペース義歯テクニックをマスターされた方々はもう従来の顎堤印象だけでの義歯製作方法には戻れないと思われている方が多いと思いますが、この総義歯テクニックと同様に黒岩口腔ケア、咽頭ケアをマスターして、苦しんでいる患者様の解決策として義歯と口腔ケアの両輪を備えた夢の馬車に乗って頂こうと思います。
兎角、口腔ケア、咽頭ケアというと歯科衛生士さんに任せがちですが、義歯治療の際も歯科医と歯科技工士がしっかりと勉強し、歯科医が出来るようになって初めて技工士に説明ができるのだと口酸っぱくいってきたこと、そしてこの黒岩メソッドも歯科医がしっかりと理解をして歯科衛生士と共に勉強することは必須の条件です。
実はこの3年来、黒岩先生と共に台湾にもご指導へ行っております。1年目は学会で、2年目には実地指導、そしてその成果を見た職員の方々も出来るようになりたいと、3年目でも実地指導の依頼を頂いておりましたが、コロナウイルスの騒ぎによって実現できておりません。
また、昨年はアメリカの障害者学会において、ニューヨーク大学とペンシルバニア大学とで私たちの在宅診療における即日改造義歯の症例と、黒岩先生の咽頭ケアの際に咽頭から取り出された痰を見た聴衆の方々が、「Oh~」と驚きの声を上げられたところを見ても、世界では未だ“咽頭ケア”という考えを実際のテクニックとして成果を上げていない事に気付き、日本でも本格的に講習会をしなければと強くつよく思う今日でございます。
新型コロナウイルスが落ち着いたならば、早速メディナ講習会で企画致します。本格的には講習会にするためには時間数や講師陣をどうするかを、今検討中です。